• 2020年3月19日

不妊症治療の「現状」を知る

日本では年間20-30万人が生殖補助治療(ART)を受けていると言われています。
自然妊娠することができなかったカップルがARTによって子どもを持つことができるようになり、体外受精や顕微授精が社会に広く浸透しています。
2020年現在、女性の妊娠がより高年齢にシフトしています。
そしてこの動きは今後も進んでいくものと考えられています。
身近に不妊治療を受けているという方もよく耳にすることが多い、いまの時代。
今回のテーマは、不妊治療の「いま」の現状を知っておくです。

そもそも「不妊」「不妊症」とは


不妊とは「ある一定期間通常の性交を継続的に行っていても、妊娠が成立しない場合」

一定期間とは一年を指すことが多いようです。

不妊症とは「妊娠を希望し医学的治療を必要とする場合」

妊娠を希望するカップルの10-15%が不妊に悩んでいる

本邦では健康なカップルの1割以上が不妊に悩んでいるといわれています。
近年は赤ちゃんを希望するカップルの年齢が上昇していることもあり、この割合はもっと高いと考えられています。

日本で体外受精で生まれる子どもの数

2017年に日本で誕生した約94万人の子どもの「約16人に1人」が、体外受精で生まれています。

この割合は年々増加しており、その要因のひとつは女性の妊娠年齢が高くなっていることです。

治療(生産率)を知っておく

生殖補助治療(ART)の技術は格段に進歩を続けています。
しかし、当然ですが、高齢化するほどその治療率(出産率)は低下していきます。

日本のデータでの出産率は

  • 20~30代前半では約20%
  • 40才で約9%
  • 45才では約1%まで低下する

新聞やテレビなどで「40代の女性タレントが妊娠した」
と大きく取り上げられることがあります。
しかし、実際には40才を過ぎての妊娠は治療を受けてもなかなか難しいということを知っておくことも重要かもしれません。
そういったマスコミの報道があると婦人科での外来受診者が急に増えるそうです。

男性の加齢が与える影響

女性の場合、妊孕性(妊娠できること)が加齢とともに低下します。
これは加齢によって、卵子の数が減ってくること、卵子の質により妊娠率の低下、流産率の上昇することが原因と言われています。

一方で男性の場合はどうでしょうか。

厚労省のデータでは第一子を儲けた平均年齢は28.3才(1975年)から32才(2010年)に上昇しています。
ところが男性の加齢と妊孕性の関連における研究は少なく、男性の加齢による妊娠への影響や児へのリスクなどについてはあまり明らかになっていません。

わかっていることとして、加齢に伴い精子の産生量、総精子数、精子生存率は減少していきます。
これらからは男性の加齢も不妊の一つの要因になることは考えられます。
今後のデータの蓄積が待たれます。

男性不妊(造精機能)にはまず禁煙を!
診察には、カップルで受診することが大切です。


不妊症の治療の細かい内容については、婦人科を受診してカウンセリングを受けていただくことをお勧めします。

しかし不妊治療を受ける、受けないに関わらず、「生活習慣が精子を造る機能(造精機能)に大きく関与する」ことは知っておいた方がよいでしょう。

具体的には、食事、飲酒、喫煙、体重、睡眠、温度環境、職場環境、運動などが造精機能に関与することが知られています。

特に喫煙は精子形成と強く関与しており、喫煙により精子濃度、精子運動率、精子正常形態率が明らかに低下することがわかっています。

さらに、糖尿病、腎疾患、うつ病、アルコール依存症では不妊症のリスクが高いことが知られています。
薬剤でも、男性型脱毛症(いわゆる育毛治療)に使用されるフィナステリド、デュタステリドはアンドロゲン受容体ブロックするため造精機能を低下させるため中止が必要です。

その他、一部「抗うつ薬」も高プロラクチン血症をきたす可能性があるため中止が必要なことがあります。

以上のように、女性に限らず男性パートナーの内服している薬も不妊治療においては大切な要素になるため、なるべくカップルで受診するようにしてください。

まとめ

今後、妊娠の高齢に伴い、不妊、不妊症で治療を受けられる方は増加していくと考えられます。

生活習慣の見直しや改善も、不妊治療においては重要です。

そして加齢に伴う女性の妊孕性の低下は現在の医学では不可避です。
現状では女性が若年のうちに妊娠することが可能となる社会環境を整えることが最重要と考えます。
そのために行政や関係機関が効果的な施策を講じることが望まれます。

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